哲学オタク・秀一郎の人生相談室

ナニワの哲学オタクが、哲学を生かして、あなたのお悩みに回答します!

今のあなたを作り出したのは、置かれた環境? それとも……

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Q3、ぼくは彼女に何かできるでしょうか?


秀一郎さん、こんにちは。
今日はぜひ聞いて欲しいことがあります。

11月に仕事で東京出張があり、その夜、歌舞伎町に飲みに行きました。
元タレントのYが歌舞伎町のバーで働いていると聞き、興味本位で店をのぞいてみました。
Yはラフな服装でしたが、さすが元タレントだけあって、スタイル抜群の美貌はひときわ目立っていました。
日曜日だったこともあり、客は少なく、Yはぼくにほぼつきっきりで接客してくれ、LINEも交換しました。
意気投合して、シャンパンを開け、店が閉まる朝7時まで飲み続け、そのままYと2人で朝ラーメンを食べに行き、めちゃ楽しい一夜となりました。

翌日仕事を終え、名古屋に帰ろうかと思っていたらYからLINEが入り、『今日もお店に来て』とお誘い。
翌日は仕事でしたが、明日イチの新幹線で帰ることにして、2日連続で歌舞伎町へ。
Yのバーで2晩で20万円使いました。

名古屋に帰ってからも時々YからLINEが来て、営業トークだけでなく、個人的なこともやり取りするように。
そして、会ってから10日ほど経ったある日、Yから電話がかかってきたのです。
『今日は大事な話をしたいんだけど』
『何?』
『あのね、私の彼氏になってくれない?』
この時点で、正直ぼくはYの言葉を疑心暗鬼な気持ちで聞いていました。
Yがその先に何かを要求してくるだろうと思ったからです。
『いや、無理だって。俺、金持ちでもないし、歳も離れてるし、名古屋住まいだし、一般人だし』
(ちなみに、余談ですが、ぼくは自営業という仕事柄、ファッションや髪型にはちょっとうるさく、体型も細身なせいか、年齢よりかなり若く見られます。
Yとはひとまわりほど歳が違いますが、Yとぼくが写った画像を女友達に見せたら、『お似合いだ』と言われました。
同伴のキャバ嬢とオヤジ、みたいな図には見えないと自負しています)
と、Yとは付き合えないと説得しました。
しかしYは退かず、


『そんなこと関係ないの。私はまーくんのことが大好きなんだから。付き合いたいの』


の一点張り。
『そこまで言ってくれるなら…付き合おうか』
と、ぼくも警戒し過ぎたかな、と反省しながらうれしくなりました。


『それでね、彼氏のまーくんにお願いぎあるんだけど。友達が借金で困ってるの。

助けてあげたいから30万円貸してくれない?』

……なんだよそれ……やっぱりそうか…
と、ぼくは失望し、
『あのね、Yちゃん、借金頼むならもっと上手くやりなよ。さすがにこれじゃあ無理あるって。悪いけど、お金は貸せないよ』
『……そうなんだ。じゃあ仕方ないね』
そう言ってYはあっさり電話を切りました。

まあ、よくある話なわけですが……
それ以降、時々、


(あの時30万貸していたら、付き合うことになっていたのだろうか)


と考えてしまいます。
Yは両親を亡くしてから生活が荒れて、芸能界から引退することになってしまいました。借金もかなりあるようです。
報道では、Yの周りには力になってくれる大人がいないらしく、Yを利用しようとするハイエナみたいな奴ばかり集まってきている状況のようです。
AVに出演したり、風俗店に勤務していたこともあったそうです。
Yを更生させ、普通に慎ましく暮らす幸せを教えてあげたいという気持ちも、ぼくの中に最近芽生えてきました。
お店で2回会っているだけですから、Yに対してまだ恋愛感情というものは湧いていません。
しかし、Yの境遇を考えると、ぼくに何か出来るのかもしれないと、ふと思ってしまうのです。
秀一郎さん、ぼくはYに対して、何かできるのでしょうか?
それとも、元芸能人のYには、ぼくのような一般人は関わらない方がいいのでしょうか?
教えてください。
よろしくお願いします。
(まーくん  自営業・40歳)

A:いつからでも

自分の本質を作り変えていくことができる!

まーくんさん、こんにちは。

 
元タレントのY、芸能界を引退してからも何かとお騒がせな話題を振りまいている存在ですね。
そんな彼女と二夜に渡って飲んで遊んで、アフターでふたり一緒にラーメンまで食べたのですから、それはそれは楽しかったことでしょう。
そして後日、魂胆があったにせよ、電話で告られる(さらには長々と口説かれる)という、実に男冥利に尽きる経験ができたではありませんか。
Yのこれまでのスキャンダルや芸能界を離れた理由は、あまりにも有名ですから、通常の社会人なら、この経験を持って「夢の遊び完結!」として終了しておき、当分は飲み会のネタとして使って十分モトが取れるでしょう。
ということで、まーくんさん、さようなら。
 
……と終わってしまっては、人生相談になりませんので、話を続けます。
 
まーくんさんはYのことが気がかりとなっているようですね。
芸能界引退後も次々と問題行動を起こし、典型的な女の転落コースを歩んでいるかのようなY。
生身のYと過ごして、情が移り、彼女のことを心配する気持ち……まーくんさんの優しさがうかがえます。
そして、まーくんさんは、Yの現在の辛い状況は、周囲の環境にその原因があると考えておられるようですね。
確かに、10代の頃から芸能界に身を置いてきたYは、一般人とは異なる感覚があるかもしれませんね。
また、ご両親が他界されているとのことで、親身になってくれる存在も身近にいないことも考えられます。
今のYを作り出したのは、置かれた環境のせい……そう考えてしまうのも無理ありません。
 
フランスの哲学者・サルトルは、「実存は本質に先立つ」として、実存主義を提唱しました。
人工物、例えばお茶碗は、「ご飯を盛り付ける食器」という目的があり、ご飯をよそいやすく、手に持ちやすい形という機能を持っています。
これがお茶碗の本質です。
そして実際のお茶碗(実存)はそれを満たすように作り出されたものです。
 
しかし、人間の場合は人工物とは違って、「本質は後から決まる」サルトルは主張しました。
生まれながらに本質が決定されているわけではなく、その人の考え方や行動によって、本質が作られていくというのです実存主義
 
Yはまもなく三十路に突入する年齢ですから、これまでの間に、周りの環境や人間関係から脱却して、自らの境遇を変えることは充分可能だったはずです。
実存主義をベースにして考えると、厳しい見方かもしれませんが、彼女の本質は自分自身で作ってきたものと言えるでしょう。
と同時に、彼女さえその気になれば、この先、自分自身の本質を新しく作り変えることもできるということになります。
 
そこを踏まえた上で、まーくんさんの出番です。
恋愛と言う武器を行使出来れば、貴方も相手も変われる。
まーくんさんが深い愛を持ってYに寄り添い、Yが本質を作り変える手助けをするのです。
もちろん、それ相応の責任が伴います。
まーくんさんの覚悟が問われます。
絶対に途中でギブアップしてはいけません。
Yをより深い奈落の世界へ突き落とす行為になります。
人を変える、更生させるとは至難であることを胸に刻み、中途半端な気持ちなら、彼女には関わらないでおくことです。
しかし、彼女の本質を変えることができた暁には、まーくんさんの本質も数段高く変化していることでしょう。
 
 
ポイント:サルトル 実存主義